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IT業界の構造と給料の実態

  • IT業界のほとんどは派遣です。 派遣社員も多いですが、正社員でも派遣社員と似たような勤務形態をとります。 多くの場合、正社員契約をしていても、派遣元企業から受注側に出向することになります。


    どのような業界においても、ビジネスでは常に発注側と受注側という関係が生じるわけですが、ITエンジニアと呼ばれる人の多くが発注側(客先)やデータセンターに出向して常駐しています。 客先常駐型が多い理由は、大手の企業内でシステムを構築して運用するケースが多いからです。 委託して社外で構築してもらうと、セキュリティーの観点から問題があるので、発注側で構築してそのまま運用します。


    もちろん自社で必要なシステムを開発するケースもあります。 ベンチャー企業などの社内エンジニアなら出向することもありません。 しかし、ITエンジニアだけを雇用している会社が自社で必要なシステムだけを開発していると利益が出ません。 システムを構築することで利益を出している会社に所属している場合は、客先に出向して技術を提供しないと利益が出ないことは理解できると思います。


    図1.は実際のシステム開発現場の構成例です。 発注側と1次請けは、大手の上場企業です。 上場していない大企業または、中小企業は2次請け以降になります。 下請け構造は、2次や3次に止まらず、4次、5次に及ぶこともあります。(多重派遣


    人数については、要員が100人のプロジェクトで、発注側のITエンジニア(社内エンジニア)は10人に満たないくらいです。 1次請けが30人ほどで職種は、プロジェクトマネージャー(PM)が1〜2人、プロジェクトリーダー(PL)が5〜10人、サブリーダー(SL)が10〜15人です。 残りの2次請け以降は、システムエンジニア(SE)または、プログラマー(PG)です。 エンジニア自身に技術と経験があり、所属している会社が大きい(影響力が強い)場合は、2次請け以降でもプロジェクトリーダーになる可能性があります。


    発注側のITエンジニア(社内エンジニア)の主な仕事は企画や分析といったことで、皆さんが考えるIT技術職のイメージとは少し異なると思います。 データベースやプログラムに携わるのは、1次請け以降、つまり2次請け3次請け企業に所属するITエンジニアとなります。 ほとんどの場合、プロジェクトマネージャーやプロジェクトリーダーは、1次請けが占有します。 2次請け以降は、1次請け(受注側)の会社と契約してるので、1次請けより下流の工程を担当します。


    図1.発注側、1次請け、2次請けの構造・契約形態・職種

    発注側、1次請け、2次請けの構造・契約形態・職種

    気になる給料についてですが、結論から言うと会社の規模によります。 一般的に、発注側や1次請けとなる大企業の方が、給料が高く雇用も安定しています。 稀に、2次請け以降でも給料が高い人がいますが、技術があり転職を繰り返している少数の人に限られます。 入社する際に、プロジェクトマネージャーやプロジェクトリーダーといった職種になると、かなり昇給すると言われることがありますが、実際はあまり変わりません。 派遣エンジニアがプロジェクトマネージャーやプロジェクトリーダーになっても、給料が上がらない理由を以下に説明します。


    下の図2.をみると、発注側が支払う契約料金に違和感を覚えると思います。 Aさんの方が上流工程を担当しているのに、AとBさんの契約料金が同じになっています。(IT業界では上流工程の方が契約単価が高い) これは1次請け側が、本来のBさんの契約料金に自社の利益を加算して発注側と契約しているからです。 1次請け企業がAさんを派遣した場合、発注側が1次請けに100万円を支払い、1次請けがAさんに40万円を支払うので、1次請けは60万の売上になります。 2次請け企業がBさんを派遣した場合、発注側が1次請けに100万円を支払い、1次請けが2次請けに65万円を支払い、2次請けがBさんに30万円支払うので、 1次請けは35万円の売上になり、2次請けも35万円の売り上げになります。 この仕組み上、Bさんがプロジェクトリーダーになって、発注側が支払う契約料金が上がっても、 1次請けと2次請けに利益をほとんど吸収されてしまい、Bさんの取り分である給料はあまり変わりません。


    図2.発注側、1次請け、2次請けの契約料金の例

    発注側、1次請け、2次請けの契約料金の例

    また、Bさんが実際にプロジェクトリーダーを担当していても、1次請けが2次請けに伝えないケースもあります。 ほとんどの場合、1次請け企業と2次請け企業の間では、労働者派遣法施行令第4条に定める業務である「ソフトウェア開発1号業務」で契約します。 これは、ソフトウェアに付随する業務全般を指します。 つまり、プログラマーを担当してもらっても、プロジェクトリーダーを担当してもらっても問題ないわけです。(当初と担当が変わっても契約料の更新を強制できない) 明示的にプロジェクトリーダーと言わなくても、それに似たようなことを兼任してもらっても問題ありません。 派遣エンジニアの場合、同じ会社で上流工程を担当するようになっても給料には、あまり反映されないことを覚えておいてください。


    前述したとおり、大企業に入らないとプロジェクトマネージャーやプロジェクトリーダーになることは困難です。 特にプロジェクトマネージャーに関しては、絶対なれないと言っても、過言ではないと思います。 では一度、大企業に入れなかった人は、一生プロジェクトマネージャーになれないのかというと、それは違います。 多くのITエンジニアは、転職することで上流工程の担当や給料アップを図っています。 よくキャリアアップという言葉を耳にしますが、ITエンジニアにとっては転職のことだと捉えても問題ないでしょう。


IT企業の給料について
書籍の紹介
  • 図解入門業界研究 最新通信業界の動向とカラクリがよーくわかる本 (How‐nual Industry Trend Guide Book)
    図解入門業界研究 最新通信業界の動向とカラクリがよーくわかる本
    発売:2010/09
    定価:1,365円
    著者:中野 明
    出版:秀和システム
    内容:インフラ業者の動向から通信技術のトレンドまで解説。業界人、就職、転職に役立つ情報が満載です。通信業界のしくみが分かりやすい本です。
  • よくわかる情報システム&IT業界 (最新 業界の常識)
    よくわかる情報システム&IT業界 (最新 業界の常識)
    発売:2008/11/13
    定価:1,365円
    著者:新井 進
    出版:日本実業出版社
    内容:業界内外で増える就・転職事情を踏まえ、プログラマからプロジェクトマネージャーまで、仕事の実情を紹介。情報システム&IT業界への就・転職を考えている人はもちろん、現在業界で仕事をし、さらにステップアップしたいと考えている人にもおすすめです。
  • IT業界徹底研究就職ガイド2012年版 (日経BPムック)
    IT業界徹底研究就職ガイド2012年版
    発売:2010/10/28
    定価:980円
    編集:ITpro
    出版:日経BP社
    内容:ITコンサルティング、システム構築、ネットビジネスなど様々なIT企業への就職について書かれています。
  • IT業界図鑑
    IT業界図鑑
    発売:2004/06/16
    定価:1,680円
    著者:経営情報研究会
    出版:翔泳社
    内容:IT業界への就職を希望する方々と、転職してIT業界で働きたいと考えている社会人の方々に、この業界のさまざまな仕事を紹介しています。